政策金利や国債金利等々と、通貨への影響について
結論
割と人気を集めてる Picker のコメントの中に「政府がお金をばら撒くから通貨価値が下がってドル安」と言った発言が見受けられるが、政府がお金をばら撒くと本当に通貨安になるのか?という意味で、
と言った出来事が、金利や通貨レート、株価などの動向に与える影響について整理しておく。
そもそも金利とは
まずもって金利と言われてローン金利以外にピンと来ないという人も多いと思うが、
辺りを意識するだけでも随分知識が深まると思われる。
政策金利
よくFF金利と言われるのは Federal funds の頭文字で、米国中央銀行の連邦準備理事会が決定する政策金利のことだが、これは短期金融市場を操作するためのいわゆる短期金利に直結するものとなる。
国債価格と長期金利
そもそも論だが、債権というのは発行時点(新発)では額面金額で購入できる。また、表面利率も固定されていれば一定の利率が変動することはない。そして償還期限が来れば額面金額が返ってくる。
国債価格の変動
ここまでは至極単純な話だが、では国債価格が変動するとはどういうことか
一方で、国債は一部の種類を除いて、株式と同様にいちど購入したものを市場で売却したり、すでに市場で流通しているもの(既発債)を購入することも可能です。市場での取引は「国債価格」に基づいて行われますが、その価格は常に変動しているため、安く買って高く売れば、株式のように売買差益を得ることもできるわけです。国債の価格と利回りが上下する仕組みについて、分かりやすく教えてください。 | いま聞きたいQ&A | man@bowまなぼう
いわゆる既発債と言われる、発行済み債権を市中で取引する時の価格が変動するわけである。
ここで話を単純化するが、パラメータとして変動するのは、
- 新規に発行される国債に設定される表面利率
- 既発債の市中取引価格
の二つと考えられる。ただし、この「表面利率」というのは長期金利のことではない。
長期金利とは
いわゆる国債の「金利」のうち、「表面利率」「利率」「クーポンレート」と「利回り」は区別する必要があります。
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一方、「利回り」は、1年あたりの運用益をパーセント表示で示したものです。国債の「表面利率」「利率」「クーポンレート」「利回り」はどう違うのですか : 財務省
財政出動と金利と量的緩和
ここまで来てようやく冒頭の記事に話が戻るが、今回1.9兆ドル規模の財政出動が仮に実現したとして財源はどうなるのかということになる。
当然歳入で賄える規模ではないため、国債を新規発行して調達するという事が想定される。これを受けてまず起こったのが米国債価格の下落に伴う利回り、すなわち長期金利の上昇である。
しかしその裏で米国債は価格が下落。資金手当てに向けた国債増発は不可欠との観測から、10年国債利回りは昨年3月初め以来の高水準に達し、経済全般の借り入れコストを押し上げつつある。
相当規模の国債発行が想定されるが、これらを捌くために一定程度表面利率に上昇圧力が働くと考えれば、既発国債の下落及び長期金利の上昇となることも理解しやすい。
通貨価値への影響
財政出動が発表されたのが1/14だが、ドル指数としてはほぼ影響はなく、むしろ若干上昇して終えている。
つまり財政出動の発表を受けて、市場は直接的なドル安反応を見せてはいないということになる。この辺りは一概に単純な要因で説明できることではないが、以下の様な想定が考えられる。
- 財政出動の財源に国債発行が想定されるが、これは通貨発行ではない。(直接的に通貨供給量が増えるわけでは無い)
- 財政懸念からドル安となる可能性もあるが、景気回復となればドル高圧力ともなり得る。
- 直接的に通貨供給量が増えてドル安圧力となるのは、国債をFRBが買い上げて大規模な量的緩和が実行された時である。
恐らく今回ドルへの影響がほぼ現れなかった要因としては"03"に拠るところが大きい。現在市場は量的緩和規模を通貨レートに直結する指標として最も重要視している。
それは、コロナ後の3兆ドル規模相当の量的緩和に反応する形で、昨年から一貫してドル指数が下げてきていることからも明らかである。
今市場が注目しているのは恐らく、昨年一年で一気に倍増したFRBバランスシート(実に3兆ドル規模での量的緩和が行われている。)の拡大スピードが2021に入りどうなるのか?と言う部分だと思われる。
昨年一年間の緩和規模だけで見るとFRBはECBや日銀と比べても圧倒的だが、バランスシート全体の規模としては、実は先行して緩和を継続してきた日銀等と比べても大差はない。これがドル円が103円近辺で持ち堪えている一因と考えられるが、仮に2021にもFRBがより一層のスピード感を持って他国に独走する規模の量的緩和に踏み切った場合には、一気にドル円が100円を割り込む様な展開もあり得る。
いずれにしても、民主党が景気対策案を発表しただけでは、直接的に通貨安へ傾くと言うことは考えにくく、今後の議会の状況、そして最後はFRBの出方次第と言うのが決定的なポイントになってくると考えておいた方が良さそうである。
おまけ
金についても書こうと思ったが、長くなってしまったので以下に参考記事のリンクを貼っておく。
www.pictet.co.jp